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イギリスの学校(3)-リテラシーと読み書き・シンセティック・フォニックス

 

イギリスの小学校「シンセティック・フォニックスと読み書き指導」

 

ジョリーフォニックスの指導:

 

次の日の朝、95分 Year 1(5-6歳)金曜日はスペリングやフォニックスの指導が朝に入る。30人のクラスを4段階に分けた。グループごとに15分ぐらいの指導をした。4つのグループはジョリーフォニックスの、段階別に、少し違うところをやる(後程、内容の写真をアップします)。4段階は先生らが細かく評価をおこなった表をもとにしてるようである。

 

 

上から3番目のグループを参観した。先生は、5枚の音素カードを持っている。

 

or ar oo er igh

 

順番に見せて、音を聞かせる。次にキーワードを er として、そのカードが出たら指差しをする。など変化をつけちえる。次にそれらの音素が入っている単語の読み方をやる。生徒らはEarly Year5歳まで)でシンセティック・フォニックスの44の音は音から触れている。Year 16月(学年最終)にスクリーニングテストが行われる。

 

 

例えば、 tornという単語は、 or  

bornという単語は orn に分かれる。先頭の音、真ん中の音、語尾の音 である。 Toonだと三つに分かれるので、先生は指を3本見せ、意識させている。 torn  born  fort   cork など次に出す。

 

 

次にミニテストをする。 ur   ow  と書いてみせておく、chuchと先生が発音して、生徒はスペルアウトできるか、  turnと発音して、 turnとスペルアウトできるか等。ちゃんと教えてから、定着できているか見る。定着はすぐには出来ないものである。

 

 

生徒らは英語圏だから、英語を話すことにはNativeである。しかし、先生が「Thursday」と言ったら、それはもう、いろんなスペルアウトする子供がいた。ジョリーフォニックスをsnakeのsと音から学び始めてから2年目である。

 

Thursday → fursday   sarsday   などである。まして先頭を大文字で書くということはほとんどの子供は難しい。文字と文字のあいだがあいたりする。 これが普通であろう。耳で聞こえたはずの音と、綴り(不規則もあれば規則どおりもある)は違うのだから。

  

日本では、Thursdayと教科書に見本が書いてあり、その音素がどう分かれているかは全く触れず、見てなぞって、次に写している方法になりかけている。この方法では、当然、どの単語も11なので、100あれば100の暗記を強いることになる。 しかし s.t.r など個々の音(26個で良いのでここは出来る)、続いてステップを踏み、やがて、th  ur  ay ir などを順に学んでいれば、中学校以後でも初めて出会う単語が「birth」や「tray」でも、応用して読めるのだが、これを全くやらずに5行も6行も写すという時間に、いったい子供の頭の中は何で占められるであろうか。中学校で10回単語を書いてくるという指導も同じくである。

 

「写すのめんどくさいな・・意味わかんないし。今日の給食なんだっけ、とにかく写そう。」

 

と音と綴りの関係に関心を向けないまま、20分ほどを、写しで費やすことが「英語の授業」といえるだろうか。

 

さて、フォニックスの指導は4レベルに分かれているので、レベルが上から二つ目の子供は

 ee  e  ea   e-e  ie  y  ey  ee を学んでいた。 (treeのeeと同じ音だけれど、違う綴りのもの)

 

ay では What is the sound? What is the letter?とたずねて指導する。音とのスペルを一致させる指導である。先生方は『Jolliy Phonics Teacher’s Guide』(著者 Sue Lloyd)を机の上に置いていた。山下先生はこの本の著者とも様々次の展開を検討中であるとのことである。山下先生に拠ると、この指導法が国が始める際には、現場の先生には指導できる先生が多くなく抵抗もあったということだ。

 

山下先生は自分ではおっしゃらなかったが、私の想像では、山下先生は、かなり初めて教えるイギリスの先生たちを支えられたことと思う。また、全体に、20分ほどのジョリーフォニックスや綴りを、機械的に教えている方も見られ、興味付けられたという印象ではなかった。理にかなっている方法を使っているのだが、山下先生ならば、音を聞かせ、アクションと一緒に、手や指の操作、友達と当てあうなど、ありとあらゆる指導法を使われていたであろう。この日は山下先生のご授業がなかったのだが。「教える」とは本当に奥が深い。理にかなっている方法がいかに立派でも、教える人の手によって、大きく変わり、生徒への浸透は違ってくるのであるから。

 

 少しお聞きしてみると、先生や保護者への指導もされてきたようだ。特に学校と家との連絡は大切で、親の世代はこのような学び方をしていなかったし、また英語を母語としない保護者もいる。指導の意味や方法を、親も理解しておくことが大事だそうだ。

 

また、子供らはこのような単語ブックをもっていて、先生が、oi erなどの単語を立てに描いて配る。右側のスペースに、好きに子供は、それを見て書く。日本は今、何でもかんでも4線にこだわっているが、あれも、綴りに注目するなら、余計である。

 

私の意見では、「意味に注目して単語を選んで会話する」ときには4線はなし。フォニックスでも聞き分けているときは、なし。大事な1文を書くときや、句読点 大文字に注意をむけるときに4線でよい。 いつも4線だとそこにはめられない生徒には、苦痛であるし、それを気にしながら、「楽しいストーリーの一部分を選ぶ」などとう、意味と形式の両刀使いは、大人でもやりにくく、認知度を上げすぎである。意味に入っているときは4線は使わないとはっきり線引きをした方が良いと思う。

 

oi   er

 

oil

 

join

 

her

 

term

 

person

 

 

また、綴りの学びがゆっくりである子供たちは、具体的な道具を使ったゲームで、音を聞いてそれに合う音素の綴りを選んで、絵の上に置くというゲームをしていた。イギリス全体でシンセティック・フォニックスを国が推進する際に、60万円程度どの学校にも配当されて、ジョリーフォニックスの全ての教材を、当時に揃えたという。例えば、 さいころをふって、チップを選び、「-ike」を選んだ子どもは、同じ綴りをさがして、その絵の上にマッチングさせる(pike)。「-ck」であれば、blackduckの絵に置く。4人ぐらいの子供であったが、どうしても音声に難しさがあるという特徴の子供もいるので、異なる指導法をとるそうだ。このようにYear 1にはいり1年近く学んだあとで、全員スクリーニングテスト を受ける。読み書きの基本ができてきたかどうかで、個々の評価や到達度を把握して、さらなる指導に繋ぐことはもちろんだが、学校の進捗度、学力も、点数化されている評価制度と密接に関わるようだ。スクリーニングテストで基本が足りないとなったら、もう一度Year1の指導に入って学ぶということも出るようだ。山下先生もおっしゃっていたのだが、この読み書きの指導では、よく移民の子供が大変なので・・・という先入観は間違っていたようだ。イギリス生まれの子供でも、海外から来た子供でも、家庭環境や保護者の学業への関心によって、それぞれであると感じた。文字が乱雑になり、字と字が離れてしまっている子供も何人かはいるが、とくに移民の子供ということではないと感じた。実際に参観させていただいての実感として重要であった。

 

【子供の学力―家庭環境―学校の指導―政府の方針と予算】と考えることが多い。また、イギリスの評価制度や学校選択制度は、良い点もあるかもしれないが、学級にインスペクターが入り、評価制度にがんじがらめになる事、保護者の学校選択では点数を参考にするという事には、課題があるようだ。これについて、後日所感をまとめる。

 

 

最後に山下先生ご自身の指導への工夫を聞かせていただいて、筆が追い付かないほどであった。先生に伺えば、私が「こう思うが,合っているかな」と、確かめたかったことが分かるのではないかと思って貴重な時間を戴いたが、先生の心から発せられた言葉に大きく学んだ2日間であった。山下先生のキーワードをお借りすると、【子供の身の回りのと、音に関する敏感さを育てること】【3文字の綴りと音においては、3文字目に弱さがある。指を使って印象づけること等】【ワーキングメモリーとの関連で個々の子供の持つ困難さ・つまづきが違うこと】【音韻認識が育つこととライミングの関係】【文字をかたまりで見ていけるようにしていく】【これらの一連の指導で、流暢性につなげていく】という点が印象的であった。また、さらに内容や意味と関連させての発展活動も後半は重要になるだろう。しかし、ここは、ワーキングメモリーともかかわって、是非先生の、ご著書を読まれることをお勧めする。先生の益々のご活躍を祈念する。

 

また、最後に、イギリスの読み書き指導を伝えて、日本でもこのままやりましょうと言っているのでは決してないことはご理解いただきたい。日本の子供なら、このような指導をするにも知っている単語が少ないし、同じようにはいかない。ただ、多感覚で理にかなった楽しい方法ならば、日本の子供は意外と音に繊細であり、いくつかの基本の例をするだけで、ずいぶんの割合の子供たちが救われるし、写して書くときにも「意味のある認知」が働く。私自身、大阪府下の学校で実践してもらい確認しており、初めて見る単語もー読める?読めそう?読めた!ーという表情に子供が変わったことは特筆しておきたい。自分たちが学んできた丸暗記法とあまりにも違うので、先生方には抵抗があるだろう。出来る限りわかりやすい教材を作成側も頑張っていかねばならないと思っている。

 

以下の写真は、ご指導内容のときの写真は、撮影を控えたので、上記の内容通りではありません。ご了承ください。ジョリーフォニックスについては、(1)で紹介した本に詳しく紹介されています。